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会計税務ニュース

海外出向役職員に対する居住者判定

海外出向役職員の居住者判定に関連した最近の国税庁書面質疑及び関連規定について紹介します。

 

居住者、または非居住者であるかにより該当納税者に対する課税権の行使可否が決定され、

所得に対する租税負担も変更する可能性があります。

そのため、居住者、または非居住者の判定は、

納税者の税負担及び国の財政を決定する重要な問題になり得ます。

 

居住者、または非居住者の判定に関連し、韓国国籍のサッカー選手の居住地国判定に関する裁判所の判決

「Jリーグで活動した韓国国籍サッカー選手の居住地国に対する判定」(2019年5月14日付掲載)

「中国プロリーグで活動した韓国国籍サッカー選手の居住地国に対する判定」(2020年1月22日付掲載))及び、

企業家の居住地国判定に関する裁判所の判決(「二重居住者判定関連の最近の判例」(2021年5月25日付掲載)

について、以前、紹介したことがあります。

 

今回は、海外出向役職員の居住者判定に関連した最近の国税庁書面質疑1及び関連規定について紹介します。

 

1. 書面-2021-国際税源-7321、2022.6.3

(1)事実関係

申請人は内国法人のタイ現地事務所に2019年4月に出向となり、

同年5月には配偶者及び子女と同伴出国してタイで一緒に居住している。

申請人は、5年の任期後に配偶者及び子女と共に韓国に同伴帰国する予定で、タイに永久に居住する意思はない。

韓国に住宅2軒を保有しており、所得税及び財産税等の納税義務を履行している。

 

(2)質問の要旨

内国法人のタイ現地事務所に出向となり、

家族と共に大部分をタイで居住する場合の居住地国及び二重居住者の居住地国判定

 

(3)回答

居住者や内国法人の国外事業場、または内国法人が発行した株式、もしくは出資持分の100%を、

直接・間接的に出資した海外現地法人等に出向している役職員は、

所得税法施行令第3条により国内居住者に該当する。

仮に、韓国とタイの国内法により両国の居住者である場合は、

韓国とタイの租税条約第4条第2項により居住地国を判断しなければならない。

 

2. 関連規定

 

・所得税法第1条の2【定義】

(1)この法で使用する用語の意味は、以下の通りである。

1)居住者とは、国内に住所を置いているか、あるいは183日2以上の居所を置いている個人をいう。

2)非居住者とは、居住者ではない個人をいう。

3)~5)省略

 

(2)第1項による住所・居所と、居住者・非居住者の区分は大統領令で定める。

・所得税法施行令第2条【住所と居所の判定】

(1)所得税法(以下、「法」という)第1条の2による住所とは、

国内で生計を共にする家族及び国内に所在する資産の有無等、

生活関係の客観的事実により判定する。

 

(2)法第1条の2による居所とは、住所地以外の場所のうち相当期間にわたって居住している場所で、

住所のように密接な一般的生活関係が形成されていない場所とする。

 

(3)国内に居住する個人が以下の各号の何れかに該当する場合は、国内に住所を置いているものとみなす。

1)継続して183日以上国内に居住することを通常必要とする職業を持っている場合。

2)国内に生計を共にする家族がおり、その職業及び資産の状態に照らして

継続して183日以上国内に居住しているものと認められる場合。

 

(4)国外に居住し、または勤務する者が外国国籍を持っているか、

あるいは外国法令によりその外国の永住権を得た者で、国内に生計を共にする家族がおらず、

その職業及び資産の状態に照らして再び入国して主として国内に居住するとは認められない場合は、

国内に住所がないものとみなす。

 

・所得税法施行令第3条【海外現地法人等の役職員等に対する居住者判定】

居住者や内国法人の国外事業場、または海外現地法人(内国法人の発行済株式総数、

もしくは出資持分の100分の100を直接・間接的に出資した場合に限る)等に出向している役員、

または職員、もしくは国外で勤務する公務員は、居住者とみなす。

 

3. 示唆点

内国法人の国外事業場、または、内国法人が発行した株式もしくは出資持分の100%を直接・間接的に出資した

海外現地法人等に出向している役職員は、継続して国外に居住することを通常必要とする職業を持っていても

居住者とみなされています。

もちろん、単なる海外出向という事実のみで居住者と判定されることではなく、

出向役職員が生計を共にする家族や資産状態から見て出向期間の終了後に再入国すると認められる場合は、

出向期間や外国国籍、または永住権の取得とは関係なく継続して韓国の居住者となります。

 

つまり、韓国から海外子会社に出向となった役職員で、

海外に滞在しなければならない職業を持った場合でも韓国の居住者となり、

海外現地国においても183日以上通常滞在することを必要とする職業を持っているとみなされて

同国の居住者となる場合は、二重居住者の問題が発生することになります。

 

したがって、海外出向役職員の居住者判定について、改善が必要であると考えられます。

 

過去、韓国企業の海外進出が活発ではなく、海外出向者も多くなかった時期には、

海外出向役職員に対する居住者判定はあまり問題にはなりませんでした。

しかし、韓国企業のグローバル化が進み、現在は海外子会社に出向する役職員も相当数に達しています。

海外出向役職員を継続して韓国の居住者とみなすとしても、

海外現地国で納付する所得税が外国納付税額として控除される場合、

実際に韓国で納付する所得税は微々たる水準です。

国内企業の海外進出を促進させ、企業と個人の税務申告に対する負担を軽減させるため、日本と同様に、

海外出向役職員に対し出向期間中は韓国の居住者として取扱わないとの規定が必要ではないかと考えられます。

 

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1 納税者が国税庁に一般的な税法解釈の関連事項を書面にて質疑応答する制度で、

外部拘束力はないが、実務的に国税庁の税法適用の判断基準として運用されています。

2 日本と同様、従来は1年基準を採用していたが、海外居住者を装った脱税を防止するため、

2014年12月23日付で改正され、2015年1月1日以降に発生する所得分からは183日基準が適用されています。