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会計税務ニュース

【韓国の会計・税務レポート】仮想資産に対する課税を廻る議論

新型コロナウイルス以降、仮想資産(仮想通貨、暗号資産、以下、「仮想資産」)市場においては、

上場企業の仮想資産投資及びビジネス活用、機関投資家の商品発売等が行われており、

個人の仮想資産に対する投資金額も相当な水準に達しています。

しかし、仮想資産に対する明確な定義はもちろんのこと、課税する規定も備えられていない状況です。

 

以下では、仮想資産に対する現行の課税規定及びこれに関する議論についてご紹介します。

 

1.仮想資産の譲渡差益に対する課税

 

仮想資産の譲渡差益に対する現行の規定及び改正案は、以下の通りです。

 

現行

改正案

ü  課税対象:仮想資産を譲渡・貸与することにより発生する所得(非居住者・外国法人の場合は、仮想資産を引出す場合を含む)

ü  同左

ü  所得区分:その他所得

ü  同左

ü  課税方法

- 居住者:基本控除250万ウォンを適用した所得に対し22%の税率で分離課税

- 非居住者・外国法人:所得支払者(仮想資産事業者を含む)が所得支払時に源泉徴収
{Min[譲渡価額×11%、(譲渡価額-取得価額等)×22%]}

ü  同左

ü  資料提出:仮想資産事業者に対し四半期別課税資料提出義務を賦課

ü  同左

ü  施行時期:2022. 1. 1.以降譲渡・貸与する分から

ü  2023.1.1.から

 

2.仮想資産、又は韓国内上場株式において譲渡差益が発生する場合の税額

 

2023年から適用される仮想資産、又は韓国内上場株式において譲渡差益が発生する場合の譲渡所得税は以下の通りです。

各々譲渡差益を1億ウォンと仮定した場合、仮想資産の方が韓国内上場株式と比べて約2倍の譲渡所得税が賦課されます。

 

区分

仮想資産

韓国内上場株式

譲渡差益

1億ウォン

1億ウォン

基本控除

250万ウォン

5,000万ウォン

課税標準

9,750万ウォン

5,000万ウォン

税率

22%

22%

譲渡所得税

2,145万ウォン

1,100万ウォン

 

 

3.仮想資産に対する議論

 

上記1の通り、2020年の税法改正案によりますと、2022年1月1日から仮想資産の譲渡差益をその他所得とみなし、

250万ウォン超過分に対して22%の所得税及び地方所得税と課すこととし、

2023年5月に総合所得税を申告しなければなりませんでした。

しかし、2021年11月30日、仮想資産に対する課税を1年間猶予(2023年1月1日から施行)する所得税法改正案が国会を通過しました。

 

政府と与党は、2021年9月までは仮想資産の譲渡差益に対し、予定通り2022年1月1日から課税するとの立場でしたが、

与党の大統領候補が2021年11月に仮想資産の課税猶予を公式化したことで、政府と与党が立場を変更したとの批判を受けました。

2022年3月の大統領選挙を前に、20〜30代の票を考慮した、いわゆる税金ポピュリズムに屈したともいわれています。[1]

 

もちろん、この批判が妥当に見えるかもしれません。政府と与党が予定通りに課税することを明らかにしたにもかかわらず、

大統領候補の立場に合わせて課税を猶予することに立場を変更したのが事実だからです。

しかし、現在の税法を考慮しますと、仮想資産の譲渡差益に対する課税猶予は適切であると考えられます。

 

韓国の所得税法は、列挙された所得に対して所得税を賦課する列挙主義課税制度を採択しています。

所得税を賦課するためには、所得税法にどのような所得が課税対象になるのかが明確に定められていなければなりません。

仮想資産の譲渡差益に対して所得税を課税する方針で決めたのであれば、仮想資産の定義と範囲、海外取引所で仮想資産を取得するか、

或いは譲渡する際の取得価額及び譲渡価額の算定方法(為替レートの適用方法を含む)、

投資損失が発生した場合の課税上の取扱い(損益の通算問題)、取引所を通さない場合の課税方法等について、

明確な規定があるべきであると考えられます。

 

仮想資産がデジタル資産に該当するとすれば、同資産から発生する利益に対して税金を納付することは当然のことです。

しかし、仮想資産市場の成長が、税金により支障をもたらされたり、阻害されたりすることがあれば、それもまた問題となるでしょう。

デジタル大転換の時期に仮想資産市場を活性化させるだけでなく、適切な税金を課す政策が必要であると考えられます。

 

 

 


[1] 2020年にも類似した例がありました。政府は2016年の税法改正により、上場株式の課税対象である大株主の基準を段階的に下げ、譲渡所得税の賦課対象を拡大する方針でしたが、個人投資家が大株主の基準下向に強く反発し、政府は当初施行する予定であった大株主の基準を猶予するとの方針を発表したことがあります(2020年12月のレポート参照)。